
8歳にしてホームレスと話をする
私は小学生の頃、ガールスカウトに入っていました。
月に1〜2回、大阪・西成の公園でホームレスの方への炊き出しをしていました。
みんなは
「どうぞ〜」
と食事を渡します。
でも私は違いました。
「お話ししませんか〜」
と言っていました。
もちろん無視されます。
それでも私は声をかけ続けていました。
なぜなら、
なぜここにいるのだろう。
どんな人生だったのだろう。
それが知りたかったからです。
リーダーには
「そんなこと言ってはいけません!」
とよく怒られました。
ある日、一人の男性が私に指で合図をしました。
私は炊き出しの場を離れ、その方の隣に座りました。
その方は私を見るなり、
「あんた、小さいのに変わっているね」
とおっしゃいました。
私は黙ってうなずきました。
その方は東北地方で歯医者さんをされていました。
評判の良い歯医者さんだったそうです。
ところがある日、小さな医療ミスをしてしまいました。
隠そうと思えば隠せたそうです。
でも、その方は正直に話しました。
すると村中に噂が広がり、
患者さんは来なくなりました。
医療ミスをする歯医者なんて要らない。
そう言われたそうです。
気がつけば、その方は西成にいました。
私は何も言わずに話を聞いていました。
そして気づくと、
「はぶらし」
とだけ言いました。
なぜそんな言葉が出たのか、
今でもわかりません。
その方の目から涙がこぼれました。
しばらくして、その方は立ち上がり、
何も言わずに戻っていきました。
私はその後もずっと考えていました。
歯ブラシは、
あの方にとって何だったのだろう。
歯を磨く道具ではなく、
村とつながる道具だったのだろうか。
患者さんとつながる道具だったのだろうか。
歯医者として生きてきた証だったのだろうか。
その後、その方を見かけることはありませんでした。
別の場所へ行かれたのか。
故郷へ帰られたのか。
それとも別の人生を歩まれたのか。
私にはわかりません。
でも今でも時々思います。
もう一度、歯ブラシを握っていてほしいな、と。
振り返ると、
私は子どもの頃から出来事よりも、その人の背景が気になる子でした。
なぜそうなったのか。
何を感じていたのか。
何を失ったのか。
何を大切にしていたのか。
どうやら私は昔から、
人の人生の構造が気になる子どもだったようです。

